Schoenfeld (2006)

Schoenfeld, A.H. (2006). Problem solving from crandle to grave. Annales de Didactique et de Sciences Cognitives, vol. 11, 41-73.

世界的に著名な米国人研究者 Schoenfeld による論文です.この論文は,いろいろな意味で大変勉強になりました.ちなみに,この雑誌はフランスのものなので英語圏では非常にマイナーですが,いい論文がよく出ています.この論文と同じ巻には Sierpinska などフランス以外の研究者の論文が集められており,ちょっとした特集みたいになっていました.

論文の内容は,教師の意思決定,もしくは教授 (teaching) のモデル化についてですが,これまでの研究をまとめたものという感じです.特に Schoenfeld (1998) で導入された theory of teaching-in-context が中心になっています (context の話は少ないですが).簡単に言えば,問題解決における意思決定(教師の意思決定を含む)が「知識」「目標」「信念」「意思決定」の4つの要素でモデル化でき,説明できるとするものです.このことを説得しようとしている論文です.以下,私の考えた点です.

1.メカニズムのモデル化
問題解決における意思決定のメカニズムをモデル化しようとしています.Schoenfeld (1998) で詳しくでていますが,「理論」や「モデル」の言葉の利用は,フランス数学教授学と似たおり,理論やモデルの構築を目指すところにおいて,数学教授学と同じような問題意識にもとづいていると思います.ええこっちゃです.

2.モデル化の対象
この論文を読んで,数学教授学とモデル化の対象,何のメカニズムをモデル化しているのか,が異なることがはっきりしました.米国の数学教育研究は,心理学や認知科学の影響が強いためか,モデル化の対象が個人・主体になっています.この論文でも,意思決定を行なう主体のメカニズムをモデル化しているようです.一方,数学教授学では,心理学とは異なり,主体のメカニズムをモデル化しません.Brousseau による教授学的状況理論であれば,状況をモデル化し,主体はモデルにおける一つの構成要素にすぎません.これは,主体が環境に適応しながら学習すると考えれば,その環境の本性を知らずには何もできないと考えるからです.この点において,それぞれは非常に異なる理論です.個人的には,個人をモデル化しても,あまり教育には役立たないと思います.なぜなら,環境(広い意味で)に個人が知識を構築するためのすべての要素があると考えているからです.

3.理論の役割
この論文では,Schoenfeld の理論が非常に多くのことを説明できると述べています.しかし,理論の役割はなんでしょう?その役割は,説明することと予見することだと思います.物理などの理論を見てもそうであるように,このふたつが理論には不可欠でしょう.説明だけでは,人間がまだそのメカニズムを知らない,もしくは科学によって説明できていない現象を説明する新興宗教の教義と同じです(言い過ぎかもしれませんが).つまり,この論文では,後者の予見について,あまり可能にしてくれそうにない感じがしました.論文では,このことに触れられていません.しかし,構成要素間の関係がまったく明確でないことや,構成要素のどれもなかなか明確に同定できそうにないことから,予見される行動を引き起こす状況を設定することは,難しいのではないかと思いました.もちろん,教育においてこれを可能にする理論構築は非常に難しいですが,教授学的状況理論などはその難しいところをある程度可能にしたと思います.

4.数学知識の位置付け
この論文で示されている理論では,数学知識はかすれて見えません.理論自体には考慮されていません.筆者が言っているように,問題解決一般における意思決定なので,数学知識にこだわらないというわけです.しかしそうであれば,当然ながら,この理論を用いてある現象を説明しても,その現象の数学概念や知識の視点からの意味は何も教えてくれません.この点が,また数学教授学と大きく異なる点です.筆者はもともと数学の研究者です.心理学的な理論ではなく,数学知識に固有な理論を構築して欲しかったです.残念.

5.教師の意思決定研究について
米国において,教師の意思決定の研究は,80年代に沢山やられ,その後下火になっています.その理由はよく知りませんが,扱う内容に特化しなければ,もしくは特定の視点を入れないと難しいと判断されたのかと勝手に推測しています.一方,フランスの数学教授学でも,教師の意思決定や行動の研究は今でもやられています.例えば,Margolinas et al. (2005) は,ブルソーの structuration de milieu を発展させた枠組みを使って分析し,米国とは全く異なる路線を進んでいます.まだちゃんと読んでいませんが,近いうちに読もうと思っています.

と,長くなりましたが,面白かったということです.

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