博士の学位審査

これまでのブログは,論文に対するコメントが主でしたが,今回はちょっと別のことについて私見を述べたいと思います.それは,博士の学位審査についてです.まあ備忘録の一環だと思って適当に読んでいただければ幸いです.

そもそも,このことを書こうと思った原因は,最近の医学博士を取得のために謝礼を払っていたという記事です.
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080319-OYT1T00870.htm

文部科学省は「透明性を」なぞと偉そうなことを言っていますが,これは明らかに制度の問題だと思います.医学の博士号を取るのは,医者になれば非常に簡単だとよく聞きますが,医学部に限らず博士の学位審査を内部のもののみで進める制度が問題でしょう.しかも,多くの場合に担当教官である主査が,学位の合否に非常に強い権限をもっている.このような制度では,学位を出してくれた先生に金を包むのも当然かと思います.まあ謝礼を払わなくとも,学位を取った者は担当教官に非常に感謝するでしょう,人間なら.

そこで,他の国ではどうやっているのか簡単に紹介しましょう.アメリカ系の国では,日本と同じような制度のところが多いかと思います.そのため,ディプロマミルが生じたり,大学によって博士の水準が異なったりしています.現在,私が勤務している米国の大学は,研究大学としてある程度有名なので,博士の水準は低くないですが,審査は学内者のみで行なわれます.

一方,ヨーロッパの多くの国は,学外者を審査員に入れることが義務付けられています.私の聞いた限りの国を言えば,フランス,スペイン,イタリア,オランダ,スウェーデンで,このような制度を採用しているそうです.おそらく,それ以外のヨーロッパの国も制度としてはあまり変わらないでしょう.では,具体的にフランスの場合を紹介しましょう.

フランスの学位審査は一般に 5 人から 7 人の審査員によって行なわれます.この中に,担当教官も含まれますが,特別の権限をもつ審査員が三人います.審査会を仕切り審査報告書を書く座長 (president) が一人と,レフリー (rapporteur) と呼ばれる二人が,その三人です.特にこのレフリーが合否の権限をほぼ握っていると言ってよいと思います.この二人は,提出された論文を査読し,報告書を書き,審査会を開いてよいかどうか判断します.一人でも,駄目だと判断すれば,次の段階には進めません.一方,ここで両者から OK が出れば,後は2時間程度の公開審査(発表約1時間,質疑約1時間)と審査員のみの密室会談を経て,無事学位の授与となります.

ここで重要なのは,学外からの審査員です(海外から呼ぶことも多い).審査員の内訳は,3分の1以上がまず学外者でなければなりません.さらに,レフリーは両者とも学外者でなければなりません(私のときは,フランスの別の大学から一人とイタリアから一人).レフリーの二人が合否の権限をほぼ握っているのですから,日本やアメリカのように学内だけでことを終わらせることができないのです.しかも,担当教官は,審査員の一人ではありますが,ほとんど権限を持っていません.もちろん,息のかかった外部者を審査員に入れ,学位を出すことも可能でしょう.しかし,公開審査が義務付けられていれば,あまりあからさまにはできません.大抵は,博士を取る者の将来を考え,同じ領域の研究者,しかもできるだけ有名な研究者を審査員に呼びます.つまり,博士論文の内容を知ってもらう,そしてコメントをもらうことが,学位審査の目的にもなっているのです.

ヨーロッパの他の国も制度の細かなところは少し違うかもしれませんが,根本はフランスと同じだと思います.そう言えば,ボスニアの知り合いは,修士の審査に他国から人を呼んだと言っていました.ちなみに,フランスでは,主な審査を学外者が行なうため,大学によって博士のレベルが異なるということは少ないです.日本やアメリカのように大学が乱立していないという理由もありますが.

このように世界情勢を見てみると,日本の学位審査の制度はもう変えないと駄目ですね.ただでさえ,おかしな論文で博士の学位を乱発している,と言われる大学があるのですから.こういうものは各大学の良心にまかせずに,中央から改革するしかないと思います.担当教官の権限を弱めることと,学外者の審査員を義務化し,権限を強めることですね.世界的にみて非常に特殊なアメリカの真似をしているとレベルがどんどん下がってしまいます.アメリカは国の特殊性のためこのような制度しかできない,ということにわれわれは気づかないといけないと思います.中央が存在せず,初等・中等教育の教育内容までが州の中のさらに小さな各地域 (district) によって異なるような国です.学位審査の制度はやはりおのおのの大学レベルでしか決定できないのです.

追記:ちなみに,フランスの博士論文は,現在ウェブ上で無料公開されています.私の大学では,このサイトに博士論文を登録しなければ学位がでませんでした.

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